デスクワークで肩こり・腰痛になった場合、労災にあたるの?
この記事はこのような疑問をお持ちの方のために書きました。
弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)
静岡県弁護士会所属(44537)
静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。
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デスクワークが原因の肩こりや腰痛は、労災として認められる?
結論からいうと、残念ながらデスクワークが原因で生じた肩こりや腰痛について、労災として認められることは非常に難しいです。
デスクワークをしている方で、肩こりや腰痛に悩まされる人は少なくありません。
しかし、デスクワークでの肩こりや腰痛が労災と認定されるためには、肩こりや腰痛が業務に起因していると証明されることが必要となります。
厚労省の通達の解説
労災と認められるためには、デスクワーク中の肩こりや腰痛が特定の業務に伴う過度の負荷によって、生じたものであることが証明される必要があります。
この点について、厚労省から以下のようなの通達が出されています。
上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について(平成9年2月3日基発第65号)
「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について」という通達では、以下の3つの要件を満たし、医学上療養が必要であることが求められています。
(2) 発症前に過重な業務に就労したこと。
(3) 過重な業務への就労と発症までの経過が、医学上妥当なものと認められること。
そして、上記の各要件の具体的な基準については以下のように定めています。
1 「上肢等に負担のかかる作業」とは、次のいずれかに該当する上肢等を過度に使用する必要のある作業をいう。
(1) 上肢の反復動作の多い作業
(2) 上肢を上げた状態で行う作業
(3) 頸部、肩の動きが少なく、姿勢が拘束される作業
(4) 上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業
2 「相当期間」とは、1週間とか10日間という極めて短期的なものではなく、原則として6か月程度以上をいう。
3 「過重な業務」とは、上肢等に負担のかかる作業を主とする業務において、医学経験則上、上肢障害の発症の有力な原因と認められる業務量を有するものであって、原則として次の(1)又は(2)に該当するものをいう。
(1) 同一事業場における同種の労働者と比較して、おおむね10%以上業務量が増加し、その状態が発症直前3か月程度にわたる場合
(2) 業務量が一定せず、例えば次のイ又はロに該当するような状態が発症直前3か月程度継続している場合
イ 業務量が1か月の平均では通常の範囲内であっても、1日の業務量が通常の業務量のおおむね20%以上増加し、その状態が1か月のうち10日程度認められるもの
ロ 業務量が1日の平均では通常の範囲内であっても、1日の労働時間の3分の1程度にわたって業務量が通常の業務量のおおむね20%以上増加し、その状態が1か月のうち10日程度認められるもの
上記のような基準に当てはまる場合には労災として認定される可能性があります。
しかし、通達において、「上肢作業に伴う上肢等の運動器の障害は、加齢や日常生活とも密接に関連しており、その発症には、業務以外の個体要因(例えば年齢、素因、体力等)や日常生活要因(例えば家事労働、育児、スポーツ等)が関与している。また、上肢等に負担のかかる作業と同様な動作は、日常生活の中にも多数存在している。したがって、これらの要因をも検討した上で、上肢作業者が、業務により上肢を過度に使用した結果発症したと考えられる場合には、業務に起因することが明らかな疾病として取り扱うものである。」と述べられているとおり、業務以外の事情が原因となることが多々ありうることから、その因果関係を証明することはかなりハードルが高いと思われます。
業務上腰痛の認定基準等について(昭和51年10月16日基発第750号)
「業務上腰痛の認定基準等について」という通達では、腰痛に関する労災の認定基準について挙げられています。
以下のとおり、災害性の原因による腰痛と災害性の原因によらない腰痛とに分けて基準が設けられています。
1 災害性の原因による腰痛
業務上の負傷(急激な力の作用による内部組織の損傷を含む。以下同じ。)に起因して労働者に腰痛が発症した場合で、次の二つの要件のいずれをも満たし、かつ、医学上療養を必要とするときは、当該腰痛は労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)別表第1の2第1号に該当する疾病として取り扱う。
(1) 腰部の負傷又は腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が業務遂行中に突発的なできごととして生じたと明らかに認められるものであること。
(2) 腰部に作用した力が腰痛を発症させ、又は腰痛の既往症若しくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること。
2 災害性の原因によらない腰痛
重量物を取り扱う業務等腰部に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に腰痛が発症した場合で当該労働者の作業態様、従事期間及び身体的条件からみて、当該腰痛が業務に起因して発症したものと認められ、かつ、医学上療養を必要とするものについては、労基則別表第1の2の第3号2に該当する疾病として取り扱う。
裁判例の解説
デスクワークによる肩こり・腰痛が争いになったものではありませんが、似たようなケースとして、電話交換手が頸肩腕症候群になってしまい、それが労災と認められた裁判例があります(昭和58年3月31日・津地裁判決)。
この判例では、「電話交換手の作業は、交換台に向って椅子に腰かけ、前傾姿勢をとり、頭を上下左右に動かし、ランプの点滅を見て、コードをジャックに差し込んだり、ダイヤル操作、キーの切換え、交換証の記入、ヘッドホーンで客の声を聞き対応することなどから成り立っており、上肢を頻繁に使用する作業であることが認められる。」として、電話交換手の頸肩腕症候群について業務起因性を認めました。
電話交換手の作業内容が特殊であり、かつ症状が重篤だったため、業務との因果関係が認定された思われます。
まとめ
デスクワークが原因の肩こりや腰痛が労災として認められるのは稀なケースで、特別な事情や証拠が必要となります。
デスクワークが原因の肩こりや腰痛でお悩みの方は弁護士等の専門家にご相談ください。
弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)
静岡県弁護士会所属(44537)
静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
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