会社の飲み会でケガをした。
会社の飲み会からの帰り道に事故に遭った。

会社からは、その後、何も言われないけど、これって労災になる?

この記事はこのようなことでお困りの方のために書きました。

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)
静岡県弁護士会所属(44537)
静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。
詳細はこちら

一般的な考え方

会社での飲み会の帰宅途中での事故に関して、「通勤災害の取扱いについて」(保険発第一〇五号・庁保険発第二四号)という通達では、以下のように記載されています。

まず、労働者が、被災当日において業務に従事することになつていたか否か、又は現実に業務に従事したか否かが、問題となる。

この場合に所定の就業日に所定の就業場所で所定の作業を行うことが業務であることはいうまでもない。また、事業主の命によつて物品を届けに行く場合にも、これが業務となる。また、このような本来の業務でなくとも、全職員について参加が命じられ、これに参加すると出勤扱いとされるような会社主催の行事に参加する場合等は業務と認められる。さらに、事業主の命をうけて得意先を接待し、あるいは、得意先との打合せに出席するような場合も、業務となる。逆に、このような事情のない場合、たとえば、休日に会社の運動施設を利用しに行く場合はもとより会社主催ではあるが参加するか否かが労働者の任意とされているような行事に参加するような場合には、業務とならない。ただし、そのような会社のレクリエーション行事であつても、厚生課員が仕事としてその行事の運営にあたる場合には当然業務となる。また、事業主の命によつて労働者が拘束されないような同僚の懇親会、同僚の送別会への参加等も、業務とはならない。

簡単に要約して整理すると、以下のとおりとなります。

会社主催の行事に全職員が参加を命じられ、参加すると出勤扱いとなる場合じゃ業務と認められます。また、事業主の命令で得意先を接待したり、打合せに出席する場合も業務に含まれます。
一方で、休日に会社の運動施設を利用する場合や、労働者の任意で参加する会社主催の行事は業務とはなりません。ただし、厚生課員がレクリエーション行事を運営する場合は業務とされます。事業主の命令によって拘束されないような同僚の懇親会や送別会への参加も業務とはなりません。

実務では、このような考え方をベースに判断されますが、実際には、特別な事情がない限り、労災には認定されづらいというのが現状ですので注意が必要です。

裁判例の検討

以下では、飲み会からの帰り道や飲み会で亡くなってしまった方の遺族が起こした裁判について、解説します。

東京地裁・平成11年8月9日判決(労災否定)

会社の命令により、発電所への長期出張中にボイラー関係試験の試験員(補助)の業務に従事していたAさんが、同じ現場で働いていた方の送別会に出席して飲酒しました。その後、宿舎に帰った後に行方不明となり、四日後に近くの川で溺死しているのが発見されました。

このため、遺族はAさんの死亡が業務に起因するものであると主張し、労災保険法に基づき被告に対して遺族補償一時金および葬祭料の支給を請求しました。しかし、支給しない旨の処分を受けたため、その取消しを求めて裁判をしました。

裁判所は、以下のとおり、会合の趣旨および開催の経緯からすれば、本件会合への参加に業務遂行性があるとは認められないと判断しました。

本件会合は、前記認定のとおり一般に仕事をした他社の従業員を送別する趣旨で会社従業員の有志が企画し、回覧を回して任意で参加者を募り、広野発電所での勤務終了後に会費制で行われ、幹事が開会の挨拶をし、閉会も挨拶なしの流れ解散であったもので、このような本件会合の趣旨及び開催の経緯からすれば、本件会合への参加に業務遂行性があるとは認められない。

東京地裁・平成27年1月21日判決(労災否定)

原告の夫Aさんが勤務先の会社主催の納会で飲酒し、急性アルコール中毒を発症するなどして死亡したことについて行った労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の各支給請求に対し、処分行政庁がした各不支給処分の取消しをもとめて裁判をした事案です。

この裁判では、業務遂行性と業務起因性の有無が争点となりました。

業務遂行性というのは、簡単にいえば、事業主の支配下にあったことをいいます。
この点、裁判所は、以下のとおり述べて、業務遂行性については肯定しました。

 本件納会は、本件会社の本来の業務(変圧器等の製造)とは異なり、仕事納めの日の社内清掃後における1時間ないし2時間程度の懇親、慰労の趣旨で、従業員の任意参加により行われたものであり(なお、Cの陳述内容によれば、本件納会について、代表者から従業員に対し、よほどの事情がない限りは参加するようにとの発言がなされていた事実がうかがわれるが、当該事実をもって、従業員が本件納会への参加を事実上強制されていたものとまで評価することはできない。)、その際、散会後における従業員の業務は免除され、従業員は、散会後に適宜帰宅することが許されていたものと認められる(本件会社の従業員のうち、Cについては、散会後、若干の業務に従事していた事実はあるが、Cの陳述内容にも照らせば、Cは、年内に終了させておきたい若干の作業を自発的に行っていたものであり、他の従業員は、散会後に帰宅するなどしていたものであって、散会後に、従業員による通常業務の続行が予定されていたとの事実は認められない。)。
 しかしながら、他方で、本件納会は、本件会社内において本件会社が主催し、本件会社の費用全額負担の下、提供される飲食物を用意した上で、所定労働日における所定労働時間を含む時間帯に開催されたものであって、代表者を始め従業員全員が参加し、当日は、所定終業時刻である午後5時までの所定労働時間における勤務を前提とした賃金支払が行われている事実が認められる。
 本件納会の趣旨・性格やその開催に係る上記に掲記した一連の事実関係を総合考慮すれば、本件納会をもって本件会社の本来の業務やこれに付随する一定の行為に属するとはいいがたいが、他方で、参加者については勤務扱いを受けることを前提とする本件会社の主催行事であるというべきであるから、これを純然たる任意的な従業員の親睦活動とみることはできない。そうすると、本件納会に参加した亡Aは、本件会社の本来の業務やこれに付随する一定の行為に従事したものとはいえないが、なお、その延長線上において、労働関係上、本件会社の支配下にあったものと認めるのが相当であり、これを別異に解すべき事情は見当たらず、これに反する被告の主張は採用できない。したがって、亡Aの本件納会への参加については、業務遂行性が認められる。

裁判所は、上記のとおり、納会が会社内で行われたこと、費用を会社が全額負担していたこと、所定労働時間を含む時間帯まで実施されたこと、従業員全員が参加していたことなどを理由に業務遂行性を肯定しました。

しかしながら、結論としては、Aさんの飲酒量が明らかに多く、「本件納会における亡Aの飲酒行為は、本件納会の目的から明らかに逸脱した過度の態様によるものというべきであるから、これによる亡Aの急性アルコール中毒の発症については、業務に内在する危険性が現実化したものとはいえず、業務起因性を認めることはできない。」として、業務起因性が否定され、労災の認定はされませんでした。

最高裁・平成28年7月8日判決(労災肯定)

A社に勤務していた労働者Bさんが交通事故(本件事故)により死亡したことについて、業務起因性があるとして、Bさんの妻であるXが労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付等を請求しました。
ところが、労基署長から業務上の事由に当たらないとしてこれらを支給しない旨の決定(本件決定)を受けたため、その取消を求めて裁判をしたという事案です。

Bさんは、会社が開催した中国人研修生と従業員との親睦を図ることを目的とした歓送迎会に参加を要請され、業務を中断して会社の自動車で会場に行き、途中から参加しましたが、飲酒はせず、終了後に帰社して中断していた業務を続行することとしました。
その途中に居住する研修生らを送るため、同自動車に乗車させて運転中に交通事故に遭ったという事情があります。

裁判所は、以下のとおり述べて業務上の災害にあたると認定しました。

 以上の諸事情を総合すれば、Bは、本件会社により、その事業活動に密接に関連するものである本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、本件工場における自己の業務を一時中断してこれに途中参加することになり、本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻るに当たり、併せてE部長に代わり本件研修生らを本件アパートまで送っていた際に本件事故に遭ったものということができるから、本件歓送迎会が事業場外で開催され、アルコール飲料も供されたものであり、本件研修生らを本件アパートまで送ることがE部長らの明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、Bは、本件事故の際、なお本件会社の支配下にあったというべきである。また、本件事故によるBの死亡と上記の運転行為との間に相当因果関係の存在を肯定することができることも明らかである。

本件では、労基署、一審、二審では遺族の請求は否定されていました。

下級審(一審、二審)では、この歓送迎会は定期的な行事ではなく、社員に参加を義務付けていたものではないと判断されました。
つまり中国研修生の歓送迎会は定期的な行事ではなく、社員に参加を義務付けていたものと認められず、E部長が前日に企画し、同部長の判断で社員全員に声がかけられたが、不参加によって不利益が生ずることもなく、E部長がBに出席を約束させたものでもないことなどが認定されました。
そのため、従業員有志によって開催された私的な会合であると判断され、業務遂行性が否定されました。

しかし、最高裁は、中国人研修生受け入れの事情や歓送迎会には従業員及び研修生全員が参加し、社用車で送迎し、費用もA社の経費で支弁されていたことなどから、この歓送迎会はA社が企画した業務関連の行事であると認定しました。Bは社長代行のE部長から2度にわたって参加を促され、参加できない理由であった報告書の作成については、歓送迎会終了後にE部長が手伝うとまで述べられていた状況において、強制でなくともE部長の立場にも配慮すれば、Bにおいてその要請を受け入れないことは事実上困難と判断されました。

また、歓送迎会終了後に資料作成業務を再開するために工場に戻る必要があったことも認められました。下級審では、帰社することを命じる業務命令がなかったとして業務遂行性を否定しましたが、最高裁は、資料作成業務がBに求められていた業務であり、工場に戻ることは業務遂行の一環であると判断しました。具体的には、歓送迎会の翌日に提出しなければいけない資料作成業務があり、E部長が歓送迎会終了後、その業務を手伝うと申し出ていたことから、終了後に工場に戻ってその作成業務を再開することを余儀なくされていたと認定されました。

さらに、Bが研修生を社用車で宿舎に送った行為についても、研修生の宿舎が工場への帰路から大きく外れるものではなく、工場に帰る一連の行動の範囲内であるとして、業務との関連性が認められました。

この判決は、労働者の置かれた状況を実態に即して判断し、労災認定に柔軟性をもたらす可能性を示した重要なものといえます。

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)
静岡県弁護士会所属(44537)
静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。
詳細はこちら