休憩時間に遊んでいたらケガをした。
休憩時間中にお昼ご飯を買いにコンビニに向かっているときに事故に遭った。
このような場合も労災になるの?

この記事はこのようなことでお困りの方のために書きました。

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)
静岡県弁護士会所属(44537)
静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。
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基本的な考え方

労働基準法第34条第3項によれば、休憩時間中は労働者が自由に行動できるとされています。
そうすると、そもそも休憩時間中の事故については業務遂行性(その事故が事業主の支配ないし管理下にあるときに発生したか)が認められないとも考えられます。

しかし、休憩時間後に再び就業する予定があり、事業主の管理下にある場合には、業務遂行性が認められることがあります。つまり、休憩時間中であっても、事業主の施設内で行動している限り、業務遂行性が認められる可能性があるのです。

そうすると、冒頭の質問であります「休憩時間にコンビニに向かう途中に事故に遭った」というケースでは、施設外での事故なので、事業主の管理下にあるとはいえず、業務遂行性が否定される可能性が高いと考えられます。

次に労災として認められるためには、業務遂行性だけではなく、業務起因性、つまり、その災害が業務に内在する危険によって発生したといえる必要もあります。

そうすると、休憩時間中の行為が私的なものである場合、業務起因性が認められないことが一般的です。

しかし、飲水や用便などの生理的必要行為や、作業と関連する合理的行為については、事業主の支配下にある限り業務に付随する行為とみなされることがあります。このような場合、業務起因性が認められることがあります。

例えば、休憩時間中に事業所内で飲み物を取りに行く行為や、トイレに行く行為などは、業務に関連する行為とみなされることがあります。これらの行為が事業主の管理下で行われている限り、業務上の災害と認められる可能性が高いのです。

では、冒頭の質問にありました休憩時間中に遊んでいた場合の事故についてはどうでしょうか?
この点については、次の裁判例で解説します。

裁判例の検討

佐賀地裁・昭和57年11月5日(業務起因性を肯定)

休憩時間の終了間際にハンドボールを使ったゲームをすることになり、その際、従業員の1人が転倒したという事案です。

裁判所は、「業務起因性があるとは、労働者の負傷の場合は、それが業務を原因として生じたことをいうのであるところ、本件負傷に業務遂行性が認められる以上、特段の事情がない限り、業務起因性も推定されると解すべきである。」として、「特段の事情」の有無を検討しました。

そして、以下のとおり述べて業務起因性を肯定しました。

(一) 本件事故のあつた簡易ゲームは、休憩時間中の二〇時五五分ごろから行われた業間体操に引き続いて、作業開始までの僅か一〇分ないし一五分くらいの間に行われたものであるが、右業間体操は、職場体操として、毎回始業前、休憩時間後、終業時に各職場において全員参加して必ず行われるもので、その内容は、会社が体育専門家により、その職場環境にマツチした基本的体操として考案されたものであり、その目的は、作業を開始するに当つての身心の準備や勤務中の気分転換、疲労防止、回復をはかることにあり、その実施については、会社の研修所において所定の訓練を受けた体育リーダーの指揮のもとに行われるものであつて、それはいわば作業のための準備行為と目すべき性格のものと考えられる。
(二) 次に簡易ゲームは、各班別に行われる体育活動の一つであるが、会社はこれについても前記職場体操をも含めた生産体育の一環として積極的に推進していた(労働安全衛生法七〇条によれば事業者は労働者の健康の保持増進を図るための必要な措置を講ずべき義務が定められている)。
 ・・・従業員は職場の上司でもあるこれら体育推進員らからできるかぎり参加するよう指導され、参加しないことによつて人事や給与面で不利益を受けることはないにしても、事実上は病気や負傷などやむをえない事由でもないかぎりこれに参加せざるをえない状態にあつたものである。
 また、会社は、業務に支障がないかぎり右簡易ゲーム等が若干就業時間にくい込んで行われることを黙認していたものであるが、これは当時石油危機に起因して減産態勢をとつていたことのほか、会社がこれら職場における体育活動を積極的に推進しようとする立場をとつていたことと無関係ではないと考えられる。
(三) 更に、本件簡易ゲームは、前記作業の準備行為ともいうべき業間体操に引き続いて就業時間にくい込んで行われたものであり、しかも右ゲームの終了時間は別に定めていなかつたから、従業員としては、仮に右ゲームに参加しなかつたとしても、いつゲームが終了して作業が開始されるか分らず、常に作業開始に備えて待機していなければならず、その間に私的行動をする余裕はなかつたと考えられる。
 ・・・従業員としては、いわばその間は、右ゲームに参加するか、就業に備えて待機するのかのいずれかを選択するしかない状態であつたということができる。その点で全く私的行動の自由が保障された休憩時間とは異なり、右簡易ゲームの行われた時間を休憩時間が延長されたものとみるのは相当ではない。したがつて同じく簡易ゲームが行われるとしても、本来の休憩時間中や終業後などに行われる場合に比して本件の場合は右ゲームに参加しない自由がより制約されていたとみなければならない。
(四) 以上の(一)ないし(三)の事情を総合して判断すると、本件簡易ゲームは、従業員が休憩時間中にかつてに行う私的ゲームなどとは異なり、より拘束性の強いものであつて、会社の業務と密接な関連性を有する行為とみることができ、これをもつて被告主張のように私的行為と評価すべきであるというのは当を得ず、従つてその間に発生した本件事故も右業務に起因するものと認めるのが相当であり、右認定を覆すに足る証拠はない。

裁判所は上記のとおり、ゲームが休憩時間中の業間体操に続いて行われていたところ、業間体操は全員参加で行われ、作業の準備や疲労防止を目的としていたこと、ゲームは会社が積極的に推進しており、従業員は事実上参加せざるを得ない状況であり、会社はこれらの活動が就業時間に食い込むことを黙認していたこと、ゲームは終了時間が定められておらず、従業員は常に作業開始に備えて待機する必要があったことなどから、ゲームは私的行為ではなく、会社の業務と密接に関連する行為として、事故も業務に起因するものと判断しました。

熊本地裁・昭和46年8月23日判決(業務起因性を肯定)

熊本営林局農林事務官が公務逐行のため同局構内を休憩時間中に通行中、たまたま休憩のためキャッチボール中の同局職員の投げた球により肋骨骨折等のケガをしたという事案です。

これは、被害者自身は、キャッチボールをしていたわけではないという点に注意が必要です。

裁判所は、以下のように述べて公務遂行中に他人が遊んでいるボールでケガをしたことについて公務災害として認めました。

 休憩時間中に公務遂行中、たまたま職員のキャッチボールの球がそれて当ったことによるものであり、休憩時間中職員が構内でキャッチボールをすることは、通常見受けられるところであるから、右の事実のみをもって業務起因性を認めえないわけではないが、加うるに、・・・を総合すれば、本件事故当時の前記渡り廊下附近の状況は、右渡り廊下を隔ててその両側が中庭となっており、右渡り廊下には屋根があるだけで下部には何等障壁がなく、営林局職員は、日ごろ休憩時間中に、右両中庭において、網を張るなどの防護措置をとることなく、前記渡り廊下に交叉するような位置でキャッチボール等をするのを常としていたものであるが、そのため本件事故前の昭和三八年夏ごろにも職員の訴外A、同Bが前記中庭を通行中野球ボールにあたり軽傷を負ったことがあるほか、右中庭に面していた文書書庫の窓ガラスは飛来するボールで再三破損され、休憩時間に同書庫内に在室することは危険な状態にあり、かつ、また隣接の訴外C方には、暴投球が飛び込んで硝子、屋根瓦を破損したこともあり、同訴外人から、職員に直接口頭で抗議を受けたばかりでなく、昭和三九年一月九日には、被告熊本営林局長あてに右趣旨を記載した陳情書を提出されたこと、その時まで被告熊本営林局長は前記のような中庭での休憩時間中における職員のキャッチボールを黙認し、同月中旬ごろ、初めて総務部長名でもって、構内におけるキャッチボール、打球練習等を禁じる旨の部内通達を出し、構内の一部にネットをはったことが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない)ることからすれば、本件事故現場である渡り廊下の両側の中庭でのキャッチボールには、右渡り廊下を通行する者に危険を及ぼすおそれが当然予想されるところであるから、その管理権者たる被告熊本営林局長は、これに対し何らかの危険防止策をとるべきであり、このことを黙過して何らの措置もとらなかったことは、その施設管理に瑕疵があったものというほかはなく、この点においても 本件事故は公務に起因するものといわねばならない。

簡単に言えば、今回の事故が起こる前から休憩時間中のキャッチボールによって、事故が何度か起きていたという事情があり、そうであれば、施設管理者としては、何らかの対策を講じるべきであり、それを怠った施設管理については瑕疵があり、今回の事故は公務に起因するという判断です。

まとめ

上記裁判例からすると、休憩時間中に遊んでいてケガをしてしまったという場合、その内容が事業主が推奨していて、参加が強制されていたなどの事情があれば、労災として認定される可能性があると思われます。

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)
静岡県弁護士会所属(44537)
静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。
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