個人事業主は労災保険に加入できないの?
労災保険特別加入者って何?
どんな場合に労災保険給付を受けられるの?

この記事はこのようなことでお困りの方のために書きました。

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)
静岡県弁護士会所属(44537)
静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。
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特別加入制度

労災保険は、日本国内で労働者として事業主に雇用され、賃金を受け取る者を対象としています(労災保険法第7条)。そのため、事業主や家族従業者など労働者以外の者は、原則として労災保険の対象外です。

しかし、中小企業の事業主や個人事業主などは、労働者と同様の業務に従事することが多く、業務中に負傷するリスクも同様に高いです。

そのため、労災保険法第33条では、一定の要件を満たす場合に限り、事業主や自営業者などが特別に労災保険に加入できる制度を設けています。

特別加入が認められる者の範囲は以下の通りです。

  • 中小事業主とその事業に従事する者
  • 一人親方等の自営業者とその事業に従事する者
  • 特定作業従事者
  • 海外派遣者

通達の判断基準

上記のとおり、個人事業主であっても特別加入者となることで、労災保険給付を受けることができますが、特別加入者が労災保険によって保護される業務の範囲は、特別加入者が行う全ての業務が含まれるわけではないので注意が必要です。

特別加入者が業務上災害と認められるためには、労働者の行う業務に準じた業務に限定されます。

具体的には、昭和50年11月14日基発671号等の通達によって、業務災害として保護される業務の範囲が定められています。
これは、中小事業主等の場合、業務内容が自身の判断により決まるため、保護の対象とする業務行為の範囲を客観的に定める必要があるからです。

裁判例の紹介

特別加入者として保険給付の対象となるか争いとなった裁判例を紹介します。

  • 川越労基署長事件(東京地裁・令和3年4月5日)
    • 事案:貨物の運送事業を営む会社の取締役が、運送用の車両を調達するために中古車両のオークション会場に赴いた際、歩行中に自動車に衝突されて脳挫傷等の傷害を負った。
    • 判決:車両の探索・下見を事業主である取締役のみが行っていたわけではなく、労働者である従業員も業務として行っていたことから、業務遂行性を認めた。
  • 三好労基署長事件(高松地裁・平成23年1月31日)
    • 事案:林業に従事し、中小事業主として労災保険に特別加入していた者が、振動傷害を負い、その療養のために事業に従事できなかったとして休業補償給付の申請をしたが、不支給処分を受けた。
    • 判決:特別加入者の場合、全部労働不能を保護要件とすることは平等原則に違反しないと判断。
  • 井口重機事件(最高裁平成9年1月23日)
    • 事案:土木工事請負業を営むとともに、重機を他の土木工事請負業者に賃貸する業務を行っていた中小事業主が、重機の賃貸のための作業中に掘削機の下敷きとなって死亡。
    • 判決:特別加入の申請書には業務内容を詳細に記載する必要があり、「土木作業経営全般」との記載では、重機の賃貸業務に保険関係が成立していないと判断。
  • 竹藤工業事件
    • 事案:建築工事の請負等を目的とする会社の事業主が、受注を希望した工事予定地の下見に行く道中、運転していた自動車ごと池に転落して溺死。
    • 判決:保険関係の成立する事業は、場所的な独立性を基準とし、特別加入の承認を受けることができないと判断。

判例から見る申請手続の重要性

特別加入の申請書には、業務内容を詳細に記載することが重要です。
また、複数の事業を営む場合は、事業ごとに特別加入を申請し、承認を受ける必要があります。裁判例でも、申請内容の詳細さが保険給付の可否に影響を与えることが示されています。

労災保険の特別加入制度は、中小事業主や一人親方等が労働者と同様に保護を受けるための重要な制度です。
業務上災害の判断基準や申請手続きについて理解し、適切に対応することが求められます。

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)
静岡県弁護士会所属(44537)
静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。
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