会社のスポーツ大会・ゴルフコンペでケガをした。
労災の申請が認められるのか知りたい。
この記事はこのようなことでお困りの方のために書きました。
弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)
静岡県弁護士会所属(44537)
静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。
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通達の解説
まず、スポーツ大会など、会社が関係する運動中の事故については、通達(平成12年5月18日基発366号)で以下のとおり、判断基準が定められています。
運動競技に伴う災害の業務上外の認定については、他の災害と同様に、運動競技が労働者の業務行為又はそれに伴う行為として行われ、かつ、労働者の被った災害が運動競技に起因するものである場合に業務上と認められるものであり、運動競技に伴い発生した災害であっても、それが恣意的な行為や業務を逸脱した行為等に起因する場合には業務上とは認められないものである。
そのうえで、対外的な運動競技会の場合と、事業場内の運動競技会の場合の2つに分けて考えています。
対外的な運動競技会の場合には、運動競技会出場が出張又は出勤として取り扱われるものであること、運動競技会出場に関して、必要な旅行費用等を事業主が負担していることが必要とされています。
事業場内の運動競技会の場合には、同一事業場又は同一企業に所属する労働者全員の出場を意図して行われるものであること、運動競技会当日は勤務を要する日とされ、出場しない場合には欠勤したものとして取り扱われることが必要とされています。
裁判例の解説
福岡高裁・平成31年2月1日判決(労災否定)
上司から頼まれて参加したマラソン大会で心停止となって死亡した亡銀行員の父が労災の申請をしましたが不支給となったため、その取消しを求めた裁判です。
裁判所は、以下のとおり、銀行がマラソン大会の開催に関与していないことや参加費は各参加者の個人負担とされていたことなどから、大会への参加が銀行の職務上の要請とはみられず、亡銀行員が死亡の際に銀行の支配下にあったといえず、死亡が業務上の事由によるものではないから、労災保険法上の保険給付の対象となるための要件に当たらないとして、亡銀行員の父の訴えを認めませんでした。
本件大会は、××町陸上競技協会が主催するマラソン大会であり、他に複数の団体が後援団体又は協賛団体等として関与していたものの、B銀行はその開催に関与しておらず(前記2(3))、B銀行ないし△△支店と熊本市又は××町との間で、本件大会の開催に関して業務上の関係があったと認めることはできない。
また、本件大会への参加は、B銀行において出張又は出勤として取り扱われておらず、参加費は各参加者の個人負担とされていたのであるから、この点からも、本件大会への参加がB銀行において職務上要請されていたとみることはできない。
・・・◎◎マラソンについては、B銀行の行員にとっては参加料が無料という利益を得ていたものの、B銀行において、出張又は出勤として取り扱われていたものではない。
・・・したがって、本件大会への参加が、B銀行の事業活動に密接に関連して行われたものということはできない。
・・・しかし、前記認定事実のとおり、Cは、Aを含めた△△支店の行員らを勧誘するに当たって、参加を命じたり、参加を強く促したりした形跡は認められないし、Aに対して不参加の場合に何らかの不利益があったりB銀行の業務に支障が生じるなどと示唆したような事情もうかがえない。また、行員に対して本件大会に不参加であるからといって不利益が課せられたわけではないし、B銀行の業務に何らかの支障があったわけでもない。
・・・以上の事情を総合考慮すれば、本件災害の際、AがB銀行の支配下にあったということはできない。
宇都宮地裁・令和3年3月31日(労災肯定)
県立高校教諭の原告が、県高体連主催の春山安全登山講習会に、同高校登山部の顧問として自校生徒を引率して参加し、講師として他校生に雪上歩行訓練を実施中、突如発生した雪崩に巻き込まれ傷害を負ったという事案です。
原告は、公務災害の申請をしましたが公務災害が認められなかったことから裁判をしました。
裁判所は、以下のとおり、自校の職務命令権者である学校長が旅行命令を発出するに際して、これとは別に、講師として参加し、上記の一連の行動をとることについて黙示の職務命令を発していたものと認め、原告の指導訓練は、黙示の職務命令の範囲を逸脱するものではなく、公務遂行性の要件及び公務起因性の要件を満たすから、災害は、地公法1条所定の「公務上の災害」に当たるとし、処分は違法として原告の請求を認容しました(公務災害として認められました)。
問題は、本件において原告が関与した高体連関連業務は、原告をC1高校登山部顧問に任命した同高校学校長によって、「特に勤務することを命じられた」業務に当たるか否かである。
ア この点、上記のとおり高体連関連業務それ自体は「公務」ではない。したがって、任命権者であるC1高校学校長の原告に対する登山部顧問への任命は、飽くまで同部顧問への就任を命じるものにとどまり、高体連関連業務への従事ないし関与を「特に勤務」として命じたものとは解されない。また、上記1(4)のとおり、原告に対して発出された本件旅行命令は、本件講習会に参加するため、原告が部活動の一環として生徒を引率して出張し、泊を伴う指導業務に行ったことに対する教員特殊勤務手当を支給する前提として発出されたものであって、それ自体に、高体連関連業務への従事を「特に勤務」として命じる趣旨を含むものとは解されない。
イ 以上のとおり、原告が行った高体連関連業務は、上記任命権者であるC1高校学校長が明示的に「特に勤務」を命ずることによって行われたものであるとはいえないが、ただ、このことは黙示的な職務命令によって非公務である高体連関連業務が行われる場合があることを排除するものと解されないところ、上記1(1)ないし(4)で認定した各事実によれば、本件においては、この点につき以下のようにいうことができる。
(途中省略)
ウ 以上によれば、本件災害は、任命権者(職務命令権者)の支配管理下にある状態において発生した災害であるということができるから、公務遂行性の要件を満たすものというべきである。
仙台高裁判決・令和3年12月2日(労災肯定)
果物生産会社の従業員が、会社で毎年開かれるさくらんぼの収穫に向けた決起大会での腕相撲により右肘を負傷した事案です。
従業員は、労災の申請をしましたが否定されたため、裁判をしました。
裁判所は、従業員が腕相撲に参加したことは、社長の指示にしたがって業務を遂行した行為であると認められるとして、従業員の請求を認めました。
決起大会は、社長自ら企画実施し、会社が従業員の全員参加により主催したもので、その目的は、会社の主力業務であるさくらんぼ収穫の繁忙期を間近に控え、事務的な連絡のほか、通年の従業員に対し、短期労働者に対し指導的役割を果たすことへの自覚を促し、慰労として飲食を提供し、士気を高めてさくらんぼの収穫作業への積極的な取組みへの動機づけを行い、併せて繁忙期の作業分担など従業員の指揮監督の一助として、従業員の資質・特性を把握し、さくらんぼの収穫を迅速、安全に確実に行えるようにすることにあったと認められる。
決起大会は、社長であるBが、従業員全員が参加可能な日取りを選び、始めから酒食を提供するそば処の座敷を会場として、時刻も夕食時の午後7時からとし、日中の通常業務のなかった控訴人も、全員参加であると社長から説明されて参加が求められ、遅参が許容されつつも実際に全員が参加したものである。
このような決起大会の目的や開催方法からして、決起集会は、会社が労働者に参加を強制した業務であることは明らかである。
そして、決起大会は、夕食時の午後7時から始まるにもかかわらず、まず初めにB社長自らが業務の説明を30分程度もしており、他方で、会場をそば処として全員の集合前から酒を飲み始める者もいたことから、飲食を伴う懇親会と社長の従業員への説明を一体のものとして企画実施されたことも明らかである。
そして、腕相撲は、決起大会における例年の恒例行事であって、全員参加の勝ち抜き戦で行われていたこと、今回の決起大会や懇親会も、そば処の座敷で行われ、腕相撲は懇親会の途中から座敷のテーブルで行われたこと、採用されて1月半余りにしかならない新人労働者である控訴人が、従業員8名の小規模会社の社長であるBから、決起大会の恒例行事で全員参加の勝ち抜き戦であると腕相撲を行う趣旨を説明され、初戦となる社長の対戦相手として直接指名されたという腕相撲の参加の経緯からすれば、控訴人は、会社の労働者としての立場から、社長の要請に応じて腕相撲に参加しないわけにはいかない状況に置かれたものといえる。
そして、懇親会も腕相撲も、会社の収益の根幹にかかわるさくらんぼ収穫業務を間近に控え、とりわけ新人の労働者であった控訴人においては他の従業員との懇親を深めて知識経験を共有し、従業員の連帯感と協調性を高め、危険を伴う肉体労働でもある農作業において、安全かつ迅速に収穫作業を行うとともに、短期労働者のリーダーとしての資質も高め、労働者が事業収益の向上に一層寄与していくことを目的とするという意味で、決起大会における社長からの業務説明のみにとどまらない業務上の必要性を一体として有していたといえるのである。
控訴人は、社長に勝ったことから、勝ち抜き戦の恒例に従って、続いて社長に指名された取引先の従業員と対戦して右肘骨折等のけがをしたのであって、腕相撲に参加して骨折したことは、会社の業務として行われた決起大会の一環として、一連一体の行事として行われた懇親会や腕相撲において、社長の指示に従って腕相撲の対戦をしたからにほかならない。
このような社長の指示が、業務命令に近い義務的な性質の指示であると控訴人に受けとめられるのは当然であって、控訴人が腕相撲に参加して対戦したことは、決起大会への参加と一体となる会社の業務として、社長の指示に従って労働者が業務を遂行した行為にほかならないものと認めるのが相当である。
前橋地裁・昭和50年6月24日判決(労災否定)
従業員がゴルフコンペへ行く途中で交通事故により死亡したという事案です。
裁判所は、以下のとおり「出席が、事業運営上緊要なものと認められ、かつ事業主の積極的特命によってなされたと認められるものでなければならない。」としたうえで、本件では、会社代表取締役による出席命令や出席費用の会社負担を認定したものの、労災としては否定しました。
以上の認定事実を総合すると榛麓会の性格は、あくまでも親睦団体の域を出ないものと判断でき、従って榛麓会が、訴外大同製鋼渋川工場と訴外糸井商事との間で取引について検討することを課題とした会議であるとする原告の主張は採用できない。
もっとも、榛麓会の例会を開催することにより、人事異動の報告や、営業方針、生産方針の変化等について出席した会員の間で互に情報を交換する機会をもつこととなり、ひいては、それによって取引の円滑をはかることができる利点のあることは否定できないけれども、右利点は、例会開催の付随的利益にすぎず、それが榛麓会の本来の目的ではない以上、右会の性格は、親睦団体の域を出ないものとの先の判断をくつがえすことができず、仮にそうでないとすると、単なる接待のためにする宴会の類のものも、広く、業務の追行と解されることになり(ママ)、そうなると、その出席途上での死傷も業務上のものであるとして、労働者災害補償保険法の規定によって補償を求めることができることとなろうが、このようなことは、社会通念上許されるところではない。
もちろん、親睦目的の会合ではあっても、右会への出席が業務の追行と認められる場合もあることを否定できないが(ママ)、しかし、そのためには、右出席が、単に事業主の通常の命令によってなされ、あるいは出席費用が、事業主より、出張旅費として支払われる等の事情があるのみではたりず、右出席が、事業運営上緊要なものと認められ、かつ事業主の積極的特命によってなされたと認められるものでなければならないと解すべきところ、証人糸井久夫の証言によれば、榛麓会への出席が、同人の命令によってなされ、あるいは出席費用が出張旅費あるいは交際費として支払われたことは認められるけれども、他方訴外糸井商事の代表取締役である糸井久夫自身、榛麓会の例会の年間開催回数をはっきり覚えていないこと、また榛麓会の設立目的も明確に意識していないことがうかがわれるのであるから、右会の例会への出席が訴外糸井商事の事業の運営に必要であり、かつ、それへの出席が代表取締役である糸井久夫の積極的特命によって行われたとまでは、とうてい認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そうすると榛麓会への出席をもって、労働契約の本旨に従って行動するもの(すなわち、いわゆる業務の追行(ママ))であるとすることはできず、そうなれば、訴外糸井の死亡をもって、労働者災害補償保険法第一条にいうところの「業務上の事由による死亡」であると判断することはできない。
判例の検討
上記のうち2件の裁判例では業務上の災害として認められていますが、いずれも労災の申請段階では否定されており、一般的には社外イベントについて労災の認定はハードルが高いといえます。
しかし、上記裁判例のとおり、当該イベントの目的、業務との関連性等の諸事情から、業務上の災害として認定される場合もあります。
具体的には、当該イベントへの参加が実質的には強制されていた(命令・指示があった)といえるか等の事情から判断されています。明示的な強制がなくても上記仙台高裁の判例のように被災者が新入社員で業務命令に近い義務的な指示があったと認定される場合もあり得ますので注意が必要です。
また、その他の要素について、最初に解説した通達の基準も参考になります。具体的には、そのイベントへの出場が出張又は出勤として取り扱われるのか、必要な旅行費用等を会社が負担しているか、という点も考慮されることになります。
以上のことから、冒頭の質問にありましたゴルフコンペ、スポーツ大会についても、ハードルは高いですが、交通費が会社が負担し、出勤として扱われているなど、業務命令と言えるような状況で参加していたといえる場合などは、労災と認められる可能性があります。
弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)
静岡県弁護士会所属(44537)
静岡県が運営する交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
労災事故、交通事故など、損害賠償請求事件を得意とする。
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